アメリカンでメダカ 2/2
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くらいの深さしかない。ザリガニの小さいのが、尻尾を丸めてすばやく後
ずさりする。底の泥もかすみがかかってようにやや不健康な色合いである。
 クーラーボックスをかかえてあぜ道を引き返すと、小さい用水路にも小
魚の群れがいる。モロコあるいはモツゴのたぐいだろう。この付近の農家
の人もこのことを知らないはずはない。
 ところが、たまに網を持って出かけていく近くの田んぼでは、田んぼの
持ち主さえ、そこに生きものがいるとは知らない。田植えの季節がくれば
地下水をくみ上げて用水路を滔々と水が流れる。しかし、季節が変われば、
あるかなきかの水量が流れているにすぎない。
 そんなところだから、ザリガニぐらいしかいないとおもいこんでいる。

モロコ、モツゴ、ドジョウはあたりまえで、ときにはコブナさえ捕まえら
れるのだ。どこから這入り込んでくるのか、ちょっとしたなぞだが、とも
かく生きものがいて、その気になれば魚すくいができる。そして、その気
になってときどき網とインスタントコーヒーの空き瓶なんかを持って出か
けるのである。

 屋外で使用していた流し台を解体して、軒下の地面に据えつけ、水をた
めて魚用の水槽にしてある。玄関にある水槽を洗うさいは、ここへ魚を移
動させる。また、ここには釣ってきた魚を一時的に入れておくこともある。
 そこへメダカを入れた。ここへ来るまでにバイクの後ろで水ごとぐらぐ
ら揺さぶられてきたことですでに参っているうえに、ここへ来てさらに水
質も環境も一変したのだから、かれらは面食らう。そこも壁もステンレス
がむき出しで、線を押さえておくための石塊がでんと置いてあるだけだ。
泳ぐことも忘れて茫然自失、てんでんばらばらの方向を向いてじっとして
いる。メダカのほうがよっぽど精神的だ。
 陽があたる場所だから水温の上がりすぎには気をつけなくてはいけない。
梅の木の下あたりへ水槽を移動させたほうがいいかもしれない。
 近くのスーパーで〈メダカのえさ〉という名のメダカのエサを買ってき
た。(メダカのえさ、なんて商品名を考えるひとはネーミングの天才だ、
とおもってしまう。たしか、金魚のエサに「エンゼル」があったとおもう。
鯉のエサが「スイミー」、熱帯魚のエサで「テトラミン」…元業者はそん
なことを思い出している。  さて、「メダカのえさ」は、ふりかけみたい
な容器に、ふりかけみたいな中身だ。
 微粒子が水面にぱっと広がる。
 メダカはさぞかし、
 ♪真昼の花火と思うべな、
 といったところだ。


2006.8.7