設計士の帰郷1/2





設計士の帰郷



頭の骨にひびく甲高い靴音は
アパートのおまえの部屋の前でとまる
おまえは台所の片隅で
刈り上げたばかりの坊主頭を
ぐらりと垂れた
やせて小さいおのれが
それほど重い物体だったなんて
生まれてこのかた気づきもしなかったろう
そうだ 重い足音の持ち主が
おまえのからだに踏み込んだ

建築設計士のおまえは おまえをうらぎった世界に
定規をあてず 鉛筆の線も入れない
几帳面な筆跡もあとぐされなく
施工図面に捨て去って
うらぎりをそっくりそのまま別の世界へ
かかえていく
清潔好きでお洒落なおまえは
背広か それとも革のコートか
ノックスの帽子を小粋にかぶって

そんなおまえに敬意を表するが
やさしいことばをかけることもなかったおれを
許してはいけない
おまえがついに吐き出さなかった叱責や怨みが
呼気となり吸気となり
おまえの名をくちにするのは
この世に幾人もいない
それでも十分すぎると
おまえも納得するほかないのだから