一介の設計士の 設計どおりの最期が 繰り広げられた日々を おれはくずれそうな壁にえがいてみる おのれの死体以外は 束ねておく 支払うべきは支払い 腐敗するものはたまねぎの一片さえ残さない 食器棚も冷蔵庫もからにする こうしたときにも 澄みわたる時間があって 少しずつ幼くなっていくおのれを 袋につめる かつて手紙を書いたことすらない兄に宛てて 後始末をよろしくたのむ と便箋にしたためる それから 残りわずかな金で おまえが生きて使うこともない 新しい雑巾を二十枚ばかり用意する さあ 生まれた町へ帰ろう おまえがのこした登山靴をナップザックにつめて おまえが暮らした部屋を出て行く おまえが何十年も行き来した坂道だらけの街を おれはそろそろとおりていく きれいな足で背中をちょこちょこ小突かれながら