設計士の帰郷2/2




一介の設計士の 設計どおりの最期が
繰り広げられた日々を
おれはくずれそうな壁にえがいてみる
おのれの死体以外は 束ねておく
支払うべきは支払い
腐敗するものはたまねぎの一片さえ残さない
食器棚も冷蔵庫もからにする
こうしたときにも
澄みわたる時間があって
少しずつ幼くなっていくおのれを
袋につめる
かつて手紙を書いたことすらない兄に宛てて
後始末をよろしくたのむ と便箋にしたためる
それから 残りわずかな金で
おまえが生きて使うこともない
新しい雑巾を二十枚ばかり用意する

さあ 生まれた町へ帰ろう
おまえがのこした登山靴をナップザックにつめて
おまえが暮らした部屋を出て行く
おまえが何十年も行き来した坂道だらけの街を
おれはそろそろとおりていく
きれいな足で背中をちょこちょこ小突かれながら