包 丁
折り目ただしく包丁だった どこから見ても そつなく 包丁だった 木の柄 はがねの刃 とどめの鋲 引力に従順な やさしい重さ それらひとつひとつ ことあるごとのけじめのように 折り目ただしく ひとに仕えた 金気をきらう食材があるように 饒舌をきらった なれあいをきらった 結束をきらった 出刃でもない 柳刃でもない 菜っ切りと 愛称めく名が ときに気恥ずかしかったが 呼ばれれば折り目正しく 菜っ切り以外のなにものでもない ときどき磨かれるが 光ることじたい 身を磨り減らしたぶんの いいわけだった