無名峠で 1/2




 無名峠で


じまんじゃないが
おれはしりまでかわいてるぞ
ライターをみせられただけで火がつくぞ
てなじょうだんをひとりごち
峠という名のつく
峠がない土地へきて
べんとうをひらく
はずかしや
タンポポ ポピー
ムラサキハナナ
いろとりどりの花がこぼれそう
にょうぼうのやつ と
にょうぼうどころか
女ひでりが わざとらしく
にがわらいして
ほかに目があるでもないのに
花いっぱいのべんとうに
たじろいでみせるのだ
みるべきものもない関東平野の
けしきがひろがり
そこにべんとうがひとつ
ぐいっといばって花ひらいている
いいにおいだクン、クン、クン
花粉症のミツバチだったら
ひとたまりもねえべ
クン、クン、クンそれでなくても
みるべきもののないけしきの
北の果てでは
ゲージツがばくはつする季節
峠のないこの土地もゆれ
しりのしたは粘土質の赤土が層をなし
おれはその のりしろみたいなところに
腰をおろしているのだが
しりまでねばついているわけではない