パトリシアがいた夏


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都会の谷底を経めぐって
麻布十番をぼくらは闊歩し
三の橋から古川橋
そして魚籃坂まで自転車をつらねた
ぼくらはみんなパトリシアのガードマン
   *
ぼくらはうたった いいかげんなメロをつけて
谷を見おろして建っている
テレビ局なんか ヘイ
ウドの大木さ
アイドル見たさに
テレビ局をとりまくミーハーなんて ヘイ
みんなみんなおばかさん
麻布はなじみ、なんてきどったやつらに ヘイ
ぼくらのパトラはわたさない
   *
外交官夫人がくわえたばこで部屋の掃除をしているのを
ぼくは見たが 口外しなかった
けれども、仲間の何人かはそれを目撃しているはずだった
そしてやっぱり口外しなかった
なんてったって彼女は
パトリシアの、いつもは、しとやかなママだから。