ひかる納屋、錆びた人 2/2
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んだ崩れやすい何かの岸辺だったか、彼女自身なかば腐りかけた棒
杭のようなものだった。
 おんなは目をあげた、すでに考えられる視線ではない、失望した
り、わが娘を抱きしめたり、ましてや過去の不貞をたどる視線では
ない。
 だが彼女は、もう一度、視た。白っぽく光るもの、納屋から持ち
出された、いまそこに在るのではない〈もの〉を。それを初めて視
たとき、彼女は、自分の耳の生えぐあい、首のねじれようが、以前
とまったくちがっているのを感じた。それは自在にすべての物音を
聴きわけることができた、それは自在にもののありさまが確認でき
た。納屋の中のあの〈もの〉たちと、やっと平等な存在を克ちとっ
た……
 おんなは最後の血をふりしぼった。いかにしても破壊されること
のない執着があれば、鏡の中の頭部は、まだ完全な一個なのだ。彼
女は、もう一度、視た、自分のうつくしい横顔を。