どうせ飛べないカモメだね p14

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てしまえばそれですみそうなのだが、感謝をこめてなにかひとこと
感想めいたことをとおもうから厄介だ。出てこぬことばにのどをふ
さがれる。どうにか出てきそうなのは、「趣味ではない」のひとこ
とだが、それでは感謝どころか、かどが立つ。
 かれはそわそわと立ちあがる。
 絵とはいえ女の裸を女の目の前で見ているのは居心地がよくない。
そのことに気がつく。
「あとで、適当なところに飾りましょう」
 わぎとらしいかと俊巡しつつ机のうえの定規やコンパスをどけて、
額を本立てにもたせかける。裸の女が建築だの設計だのの本の背文
字の一部をかくしてもたれかかる。
 炬燵に脚を入れず正座している汀子はぐるりと部鼻を見まわし、
「おもしろそうなお仕事、なさっているのね」
 彼女は、じぶんも学生時代は建築設計に興味を持っていて、通信
教育の教材をとりよせたことがある、あまり使わないでどこかへや
ってしまったけれど、製図道具もひと通りそろえたことがある、な
どと話す。
「ちっちゃいコンパスだの、烏口だの、もっているだけで楽しかっ
たわ」
「烏口はいまあまり使われていないようで……」
 意味もなく机のうえのものをどかしながら、押入れに抛りこんだ
ままの犬の置物を思いだす。汀子も口をつぐみ、佐々木がなんとな
くふりかえると、彼女は炬燵のうえにおいたままのコーヒーカップ
を観察する眼で覗きこんでいる。はっとして顔をそむけた佐々木の
頭に黄色い耳が立ちあがり、折紙が折られるようにその耳が垂れて
かきかさした頼に張りつく。もしやと思う。汀子に出したコーヒー
カップに汚れでもあったら…彼女のぬからぬ顔つきを背中に映しつ
づける。


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 異様に暖かく春めいた日に、トロイ戦争の兵士を描いた絵葉書が
とどく。エアメールだ。