彼女の朗らかさに面食らう。
「蒲団のなかにいるんですけど、このままでいいなら」
机に向かって、一方の宇の三角定規の先でこめかみのあたりをち
くちくやりながら受話器をにぎっている。
「いいわよ」
「じゃあ、来てください」
蒲団を敷いて寝ていようかと、一瞬おもう。
汀子は自作の押し絵とミニローズの鉢植えをたずさえてくる。花
をかざるガラではない。画映さによろめく気分で、窓の敷居に鉢を
置く。
座卓をまえに汀子と鈎になって座り、あぐらをかいた股のうえで
押し絵の短冊をながめていると、おのれの躰から林檎の芯のような
ものが抜けていく。花をかざったり、短冊の絵姿を見ていたり、女
っぽい所作をせせら笑っているもう一人のじぶんがいる。自嘲めい
た嗤いがこみあげてくる。いまわらったりしたら、汀子にどう釈明
していいかわからない。
「夢羅の壁にあるの、あれもあなたが」
「そう、わたしがつくったの」
夢羅の壁にとめてあるのは二つとも着物を着た女性の後ろ姿だ
が、いま手にしているのは前向きである。顔はのっぺらぼうだ。
いつもながら話はとぎれがちで、汀子は薄化粧をした顔をうつむ
け、たたんだ包み紙の端をちぎってはこよりをこしらえている。そ
してかれが身じろぐたびにきゅっと躰をすぼめる。佐々木は二杯目
のコーヒーを呑む。やがて彼女はいう。
「まえは、そんなでもなかったんだけど、このごろとっても嫉妬深
くなったの、主人」
のろけともきこえ、なんと応じたものかことばがみつからない。
会社のだれかとときどきデートするといっていたが、一度、夢羅
でグループでいるのを見かけただけで、いつもひとりだし、だれか
と歩いているのを目撃したことはない。
「こんなことをすると?」
いざりよって手を握るふりをしても、逃げない。つかむと、骨っ
ぽいがしっとりとした手だ。顔いろに変化がない。おしたおせば理
性ごとひっくり返ってくれそうだ。が、鉄の橋ががんがんと鳴りは
いめる。ひゃっ、とひるんだ声は、佐々木自身の内なる声だ。彼女