男がバッグをさげて先に出ていく。
ドアを内側からロックする考えが浮かんだ。拳銃をもっているや
つが外にいて、無手のやつが籠城する。店には包丁もあるが、そん
なものがなんの役に立つだろう。
いきなりあれをぶっぱなすこともなかろう。店内の連中にじぶん
が怖じけづいていると思われてはならない。佐々木はボックスを席
を離れる。
ドアの前でまた躊躇する。びびるな! 意を決して外へ出る。ひ
やりとする夜気だ。後ろ手にドアをしめる。男はとなりのスナック
との境の電柱のそばでこっちを向いて立っている。となりからカラ
オケの歌声が外へもれてきている。
一歩踏み出そうとしたとたん、電柱のそばで紙風船を踏みつぶす
ような、みじかい尾を曳く破裂音がする。佐々木はすくみあがる。
夢羅の看板の明かりに透かして、男の手に黒光りするものを見る。
男はひとことも発しない。ジッパーのひらいたバッグへ黒いものを
慎重にすべりこませると、バッグを小脇にかかえ、暗い道路を駅方
向へ早足で横断していく。通り過ぎる乗用車がみじかく二度、警笛
を鳴らす。黒ブルゾンの姿は横道へ入って消える。
呆然とつっ立ったままでいた佐々木は、やがて気をとりなおして
夢羅のドアをあける。さっとストウールを飛びおりた者がいる。杉
浦だ。凍りついたみたいにしんとしていた店内がかれの動作でさら
にぴんと張りつめる。由貴子はカウンターの隅で美弥にしがみつい
ている。
「聴いたろ。いまの音」佐々木の声はおさえようもなく顛えている。
「ああいうのもいるんだよ」
「いまの、ピストル?」童顔をますます幼くして杉浦が訊く。
かれらだってピストルの射撃音をじっさいに聴く機会はそうそう
なかったはずだ。
佐々木の後でドアがしまると店内の緊張が解け、ストウールを下
りた杉浦も席に座りなおす。
「なんでもないの?」
美称は大きく目をみひらいている。
そのとき乱暴にドアがあけられる。佐々木は背中から外へ吸いだ
されるような錯覚にぞくっとし、女たちはきゃっと小さな叫び声を
あげる。