佐々木が応えにつまっていると、彼女もにわかに口が重たくなっ
たらしく、包装紙を折りたたみながら、夢羅にいるときと同様、他
人とのかかわりを拒む煙幕をはりめぐらしはじめている。かれは話
題をさがす。ぷいと横向く子供っぽい汀子のしぐさが目にうかんで、
思考の回路がとぎれてしまう。
「おそいわね」
彼女はつぶやいて眉間にしわを寄せ、厨房の窓口のそばで手持ち
ぶさたに低声でなにやら喋っている二人のウェイトレスへ首をねじ
る。まなざしに敵意がこもる。プレゼントの包みをからげていた赤
いリボンが彼女の右の掌に巻きついている。リボンが掌の肉にくい
こみ、いましめから突き出た四本の指が血の気をうしなって白っぽ
い。
「わたし、たまぁにだけど、お店の男のひとと散歩するの」手指に
目をおとしている。
牽制の意味なら夫がいることを強調すればすむのだから、これは
挑発なのだろう。
大寺駅の近くにちんまりしたビルをかまえたガスぶろメーカーの
営業支店があって、そこの支店長が彼女の夫である。短躯ながら肩
幅ひろく、ずんぐりした熊のような男で、配下に事務員だの営業マ
ンだのが数人いる。
「それはうらやましいですね」
「え、なにが」
口ごもっていると、
「なにが」と彼女はおいうちをかけた。
「いや、つまり、あなたと散歩できる男のひとが……」
汀子はフフンと鼻を鳴らす。
「でもどうして、これを」包みを指差す。
「なんでもないの。理由はないの。理由、なくちゃだめ?」
「あまり、理由もなく、なにするというのは……」
「強いていえばね、おわび。このまえ、声をかけてくれたのに、知
らん顔しちゃったから。あれ、ずっと気にかけていたの。だから、
おわびのしるし」
「そんなこといったら……」口をつぐむ。
そんなことをいっていたら、あなたは次から次へとおわびのしる
しを配って歩くことになるんじゃないの。それにあれは、知らん顔