というより、歴然とした拒絶だったでしょう。
フルーツポンチが運ばれてくる。オーダーをとりにきたのとは別
のウェイトレスだ。彼女は用心深そうなかたい表情でガラスの器を
テーブルに置く。まだ十代かもしれない。彼女をまったく無視した
汀子に代わって、ありがとう、と佐々木が小さく声をかける。ウェ
イトレスはかすかに笑みをみせてひきさがる。
汀子は掌を縛りあげていたリボンをほどいて束ね、それをテーブ
ルの下で握ったまま、さっそくグラスに盛られたもののてっぺんか
らさくらんぼを指でつまみとる。茎をつまんで毒々しく赤い実を鼻
先でぶるんと振るい、唇をひらく。ぬれた舌がのぞく。赤い玉が吸
いこまれて唇がとじられ、顔は正面をむいたまま、黒目が下を見る。
恍惚とした表情になる。佐々木はどぎまぎしてコーヒーカップを手
にとる。汀子はおちょぼ口になった唇のあいだに茎だけを覗かせ、
昆虫かなにかの尻尾のようにぴくぴくとうごかす。
彼女は、うっかりしたというふうに、たたんだ包装紙と、たばね
たリボンをテーブルのうえに出す。
「包みなおします?」
「このままで……」佐々木は函を横抱きにする格好をする。
「吠えないから、それでもいいわね」真顔でいう。
2
「あげる」
タバコを持った左手の横へ出されたのは、茄子である。
げっ、わるい冗談を。憮然として汀子を見やると、佐々木の肩に
かるく手をおいて、
「一富士、二鷹、っていうのはお正月のことだけど。おとさないよ
うにね」
子供に言い含めるようにいい、茄子をカウンターにおく。
ゴツンと硬い音がする。ほんものの茄子でなかったことに、佐々
木はひとまずほっとする。ごていねいに蔕までついているが、ビニ
ール製で、ファスナーのつまみが蔕の蔭にある。子供のおもちゃの
ような小銭入れである。いまの音から、硬貨が入っているのは明ら